「できる理由」から考える思考法 – マネジメント編

はじめに

『またその話か…』メンバーから『できない理由』を聞かされるたびに、そう感じていませんか? この記事では、チームの『無理だ』という空気を『どうすればできるか?』という創造的なエネルギーに変える、具体的なマネジメント手法を解説します。

1. マネジメントが実践すべきこと

この思考法をチームに根付かせるには、マネジメントの役割が不可欠です。部下が安心して挑戦できる「心理的安全性」を確保し、以下の行動を実践します。

  • ① 問いかけを変える
    • 部下の思考を前向きにする問いかけを心がける。
    • NGな問いかけ:
      • 「これ、本当にできるの?」
      • 「リスクはどうなってるんだ?」
      • 「なぜ問題が起きたんだ?」(犯人探し)
    • OKな問いかけ:
      • 「どうすれば実現できるか、一緒に考えてみよう」
      • 「これを成功させるために、何が必要だと思う?」
      • 「まず小さく試せることは何だろう?」
  • ②「挑戦」を評価する文化を作る
    • 結果だけでなく、挑戦したプロセスそのものを評価対象とすることを明確に伝える。
    • 失敗を「貴重な学習」と位置づけ、そこから得られた学びや改善策を言語化できたメンバーを称賛する。
    • 「どれだけ新しいアプローチに挑戦したか」を評価項目に加えるなど、挑戦そのものを称える文化を育む。
  • ③ マネージャー自身がロールモデルになる
    • 困難な課題に対し、まず「どうすればできるか」を考える姿勢を自ら示す。
    • 自身の失敗談もオープンにし、挑戦しやすい雰囲気を作る。
  • ④「行動しないリスク」を教える
    • 現状維持が、変化の激しい時代において「最も危険な選択」であることを伝える。

2. マネジメントの「諦め」のタイミングとは?

指導を続けても、この思考法を受け入れてもらえない場合、「諦め」の判断が必要になることがあります。ただしそれは「見捨てる」のではなく、「アプローチを変える/役割のミスマッチを認める」という戦略的な判断です。

  • ① 指導が全く響かない時
    • 前向きな問いかけに対し、常に否定や反論から入り、学習の姿勢が見られない。
  • ② 周囲への悪影響が看過できない時
    • 他のメンバーの挑戦の芽を摘む、チームの士気を下げるなど、悪影響が出始めた。
  • ③ 本人の資質と役割が合っていない時
    • その人の「慎重さ」や「リスク発見能力」は、むしろ品質管理や監査など、別の役割でこそ輝く可能性がある。

「諦め」とは、その人を見限ることではなく、適材適所の観点から、その人が最も価値を発揮できる場所へ導くための、マネジメントの重要な決断である。

3. エンジニア組織における思考法の活かし方

前のセクションで述べた「適材適所」の観点から、ここでは特にエンジニア組織を例にとり、思考タイプの強みを最大限に活かす方法を深掘りします。

  • 「できる思考」が価値を生む場面:イノベーションの推進力
    • 概要: 新しい価値を創造し、プロダクトを前進させる思考。不確実な状況でも「どうすれば実現できるか?」を問い、道を切り拓きます。
    • 役割・タスク例: 新機能開発、研究開発(R&D)、プロトタイピング、大胆なパフォーマンス改善
    • 思考の例: 「この新しい技術で、どんな未来が作れるだろう?」
  • リスクを洗い出す『できない思考』が価値を生む場面:品質と信頼性の守護神
    • 概要: これは単なる否定ではなく、「何が問題を起こしうるか?」を徹底的に洗い出す建設的な批判的思考です。プロダクトの品質と信頼性を盤石にします。
    • 役割・タスク例: 緻密なコードレビュー、品質保証(QA)、セキュリティ分析
    • 思考の例: 「どんなエッジケースが想定されるか?」「どうすれば悪用されうるか?」
  • 両方の思考が高度に求められる役割
    • 概要: 特にSREやインフラ、アーキテクチャ設計などの役割は、この両方の思考を高いレベルで使いこなす必要があります。
    • 思考のプロセス:
      1. まず「できない理由」を徹底的に探求し、あらゆる障害やリスクを洗い出す。(守りの視点)
      2. 次に、その全ての課題を乗り越えるために「どうすれば絶対に安定稼働するシステムを作れるか」という、非常に高度な「できる思考」に転換する。(攻めの視点)
    • 価値: 最高の信頼性は、潜在的な問題を徹底的に見つけ出し、それを乗り越える創造的な解決策があって初めて実現します。

革新を生む「できる思考」と、信頼性を高める「できない思考」。両者が健全に作用し合うことで、プロダクトは持続的に成長します。

まとめ

チームの力を最大化する鍵は、「できる思考」による革新と、「できない思考」による信頼性の両立にあります。マネージャーの役割は、この2つの思考が対立するのではなく、互いを尊重し、相乗効果を生む文化を育むことです。本記事のアプローチを通じて、挑戦を恐れず、かつ賢明に進むことのできる強いチーム作りを、ぜひ明日から始めてみてください。

「できる理由」が解決力を高める ~職場の問題解決とコミュニケーションに役立つ実践スキル~