エンジニアの「普通わかるでしょ」はなぜ通じない?フォールス・コンセンサス効果とマネジメント

「え、この規模の機能追加でPR(プルリクエスト)ひとつにまとめる? 普通はレビューしやすいように分割して出すでしょ?」

コードレビューや設計の打ち合わせで、こんな風に思ったことありませんか? 「インデントはスペース4つが常識」「変数名はスネークケース以外ありえない」「この規模ならAWS一択だよね」などなど。

自分にとっては「息をするのと同じくらい当たり前」なことが、相手には全く通じていなかったり、なんなら真逆の「常識」を持っていたりする。 こういうとき、つい「なんでそんなこともわからないの?」とイラッとしてしまうのが人間ってものです。

実はこれ、自分がおかしいわけでも、相手が無能なわけでもありません。 脳のバグとも言える認知バイアスの一つが働いているんです。

今回は、この現象をマネジメントにどう活かすかという話をします。 なお、本記事は『世界は行動経済学でできている』(著:橋本之克)という本からヒントを得て書いています。

フォールス・コンセンサス効果とは

この「自分の常識は、世間の常識(多数派)である」と思い込んでしまう心理現象を、「フォールス・コンセンサス効果(偽の合意効果)」と呼びます。

簡単に言うと、「自分の意見や行動は一般的で適切だから、他の人も同じように考え、行動するはずだ」と過大に見積もってしまう傾向のことです。

エンジニア界隈だとわかりやすいですよね。 Vim使いは「みんな心のどこかでVimを使いたいと思っているはずだ」と思うし、Macユーザーは「Windowsなんて使うのは少数派だろう」と無意識に感じてしまう(実際は現場によるのに、です)。

人間は自分の知っている世界を中心に物事を考えるので、どうしても「自分=マジョリティ」だという前提で思考をスタートさせてしまうんです。

開発現場で起きがちな「落とし穴」

このフォールス・コンセンサス効果、マネジメントにおいては結構な地雷になります。

例えば、リーダーがメンバーにタスクを振るとき。 「(これくらいのAPI設計なら、RESTfulにするのが普通だよな)」と思って、「いい感じに設計しといて」と指示を出したとします。

でも、メンバーの脳内にある「普通」が「今回はGraphQLでいくのがモダンで普通だよね」だった場合、上がってきた成果物はリーダーの期待とズレまくります。

ここでリーダーがやってしまいがちなのが、 「なんでそうなるの? 普通わかるよね?」 というフィードバックです。

これを言われた側はたまったもんじゃありません。「いや、僕の中ではこっちが正解だと思ったんで……」と萎縮するか、「このリーダーは古い考えを押し付けてくる」と反発するか。どちらにせよ、チームの空気は悪くなります。

「言わなくてもわかるはず」という前提は、大抵の場合、幻想なんですね。

具体的なマネジメント:「あなたはどう思う?」

じゃあどうすればいいのか。 ここで大事なのが、指示出しやフィードバックの前に「あなたはどう思う?(どういうアプローチでいこうと思ってる?)」と聞くことです。

相手の頭の中にある「コンセンサス(合意事項)」を確認する作業です。

「この機能実装なんだけど、君ならどういう設計にするのがベストだと思う?」 と先に聞いてしまう。

そうすると、相手から「あ、これは〇〇パターンで実装しようと思います」と返ってきます。それが自分と同じなら「そうだよね!」で進めればいいし、違っていればその時点でズレを修正できます。

これは単なる確認作業以上の意味があります。 相手に意見を言わせることで、相手自身の「自分が正しいと思っていること」を表に出させるわけです。

意見が違ったときは「共感」を示す

ここで重要なのが、相手の意見が自分の想定(あるいはプロジェクトの方針)と違っていたときのリアクションです。

たとえ技術的に未熟な意見だったとしても、あるいは要件定義から外れていたとしても、まずは共感を示すことがめちゃくちゃ大事になります。

なぜなら、フォールス・コンセンサス効果が働いているのは相手も同じだからです。 相手にとっても、自分の意見が「多数派で、常識的で、正しい」ことなんです。

いきなり「いや、それは違うよ」と否定すると、相手は自分の「常識」を攻撃されたと感じてしまいます。

  • NG例: 「いや、それだとパフォーマンス落ちるからダメ。こっちにして」
  • OK例: 「なるほど、そういうアプローチね。確かにその書き方だと可読性は上がるよね(共感)。ただ、今回は処理速度を最優先したいから、この部分はこう変えてもいいかな?」

一見遠回りに見えますが、「あなたの意見も、あなたの視点では正解だよね」と一旦受け止める。 その上で、「でも今回はこういう理由でこっちを採用したい」と伝える。

こうすることで、相手は「自分の感覚が否定された」ではなく、「別の視点での最適解が選ばれた」と認識できるようになります。

まとめ

自分自身は多数派で常識的だと誰しもが思っています。 それがフォールス・コンセンサス効果です。

マネジメントにおいて「言わなくても通じる」はバグの温床です。 まずは「自分と相手の『普通』は違うかもしれない」という前提に立つこと。そして、「あなたはどう思う?」と問いかけて、相手の常識を一度テーブルの上に乗せてもらうこと。

意見が食い違っても、相手にとってはそれが正義なのだと理解して、まずは受け止めること。 そうやって互いのバイアスを調整していくのが、スムーズなチーム開発のコツと言えそうです。

世界は行動経済学でできている 橋本 之克 (著)