エンジニアの「バグ」を増やすも減らすもラベル次第?心理効果でチームを変える

はじめに:ラベルという「呪い」と「祝福」

マネジメントにおいて、部下やメンバーに対する「言葉」がどれだけ重いか、考えたことはありますでしょうか。 実は、「ラベリング効果」という心理効果によって、上司が貼ったラベル(レッテル)一つで、メンバーのパフォーマンスが良くも悪くも激変してしまうんです。

使い方を間違えると、優秀なエンジニアを潰してしまうこともあれば、逆に伸び悩んでいる新人をエース級に育てることもできる。今回はそんな、ある種「取り扱い注意」な心理効果についてお話しします。なお、本記事は『世界は行動経済学でできている』(著:橋本之克)という本からヒントを得て書いています。

ラベリング効果とは?

そもそもラベリング効果とは何なのか。 簡単に言うと、「人に対して特定のラベル(レッテル)を貼ると、その人は貼られたラベル通りの行動をとるようになる」という心理現象のことです。

例えば、「君は几帳面だね」と言われ続けると、本当に細かい部分まで気にするようになったりします。これは自己成就的予言の一種とも言われていて、他者からの期待や評価が、その人のセルフイメージを書き換えてしまうんですね。

運命の分岐点:ある若手エンジニアの失敗

では、この効果がどれほど強力かイメージできるように、一つのシチュエーションからそれぞれのシナリオで比較してみましょう。

【シチュエーション】 入社2年目のエンジニアD君。 開発終盤、リリース直前のテスト工程で、彼が担当した機能に重大な考慮漏れバグが見つかりました。修正には深夜残業が確定するレベルのミスです。

悪いラベリング:「バグ製造機」ルート

上司がため息交じりにこう言います。 「お前、またやったのか。本当に詰めが甘いな」 「いつも肝心なところでミスをする、注意力が散漫なタイプだよな」

これが「悪いラベル」です。 こう言われたD君の中では、「自分は詰めが甘く、注意力が散漫なエンジニアだ」というセルフイメージが強固に固定化されます。

その後のD君(最悪のシナリオ)

「どうせ自分はミスをする」と思い込んだD君は、自信を喪失。 コードを書くたびに恐怖を感じるようになり、確認作業がかえって雑になります(「どうせ間違ってる」という諦め)。 さらに、ミスを怒られることを恐れて、小さな不具合を隠蔽するように…。 結果、D君はチームのお荷物となり、プロジェクトは炎上。典型的な「潰されたエンジニア」の出来上がりです。

良いラベリング:「品質の守護神」ルート

一方で、上司がこう声をかけたらどうでしょう。 「リリース前に見つけてくれてありがとう。この段階で気づけたのは、君が責任感が強い証拠だ」 「ギリギリまで粘れる君なら、チームの最後の砦(ラスト・フォートレス)になれる素質があるよ」

やっていることは同じ「バグ出し」ですが、ここでは「責任感が強い」「最後の砦」というポジティブなラベルを貼りました。

その後のD君(成長のシナリオ)

「自分は責任感が強く、最後の砦になれるかもしれない」と言われたD君。 彼はそのラベルに見合う人間になろうと無意識に努力し始めます。 「二度と同じミスはしない」と誓い、テストケースの設計を誰よりも入念に行うようになるでしょう。 数年後、D君は「彼がOKを出せば絶対に大丈夫」と言われる、信頼厚いスペシャリストに成長しているかもしれません。

まとめ

同じ「バグを出した」という事実でも、そこにどういうラベルを貼るかで、未来は180度変わります。 相手を「ダメな奴」と定義して切り捨てるのか、「見込みのある奴」と定義して引き上げるのか。

マネージャーが日常的に発する何気ない一言が、実はメンバーの将来のスペックを定義してしまっているのかもしれません。

世界は行動経済学でできている 橋本 之克 (著)